「明日があるさ」はたけし軍団だった?

魚谷雅彦の『こころを動かすマーケティング コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる』を読んだ。
著者はライオンに入社後、海外留学、転職を経て39歳で日本コカ・コーラ社に副社長として入社。様々な広告キャンペーンを手掛け、現在は同社の会長を務めている。
本書はマーケティング戦略の考え方を、著者が手掛けた広告キャンペーンのエピソードを交えながら解説しており、為になると同時に読み物としても面白かった。
そのエピソードの中に、お笑いファンにとって非常に面白いものがあった。


著者が日本コカ・コーラ社に入社した1994年、ジョージアのライバル・BOSSが矢沢永吉をCMに起用してシェアを伸ばしていた。
それまでジョージアはアメリカ本社主導のもとブルーカラーをターゲットにした広告を打っていたが、それを見直し「サラリーマン」をターゲットにした広告を展開することにした。
そして試行錯誤の末、あるプランに辿り着く。

広告代理店からの二〇を超えるクリエイティブ提案を納得できず却下しました。最後に行き着いたのは、サラリーマン社会をお笑いタレントを総動員してバーチャルな会社をつくってしまおうというものでした。当時男性タレントで絶大な人気のTさんを会社の営業部長に仕立て、T軍団の全員をその部下として出演させるというスケールの大きい企画でした。


一応イニシャルにしているが、これは明らかにビートたけしたけし軍団のこと。
芸人がサラリーマンを演じるジョージアのCM。これはまさに「明日があるさ」じゃないか!
以下に具体的なCMプランが続く。

今は県知事になっている人も当時T軍団の主要メンバー。彼が外回りの営業から帰ってくると上司のT部長が今日の営業ノルマは達成したのかと厳しく問い詰めます。達成できていない部下はガックリして、一息つくために自動販売機でジョージアを買って飲んでいると、後からT部長が俺も昔は同じだったよ、気軽にやれよとやさしい言葉をかける。そしてそのT部長の手にもジョージアの缶が……。


2009年の本なので、「今は県知事になっている人」は東国原のことだ。
それにしても何てカッコいいCM!これは是非とも見てみたい。
実際にビートたけしたけし軍団との契約も成立し、撮影日まで決まっていたそうだ。
しかし、これは「1994年」の話。そう、このプランが決まった直後にあのバイク事故が起こったのだ。
出演契約は破棄され、関係者に向けた発表会まであと一ヶ月というところでCMのプランはすべて白紙に戻ってしまった…。


ここから起死回生し、飯島直子を起用したあの「男のやすらぎキャンペーン」を作り出したというのも凄いのだが、このCMが実現していたらとつい想像してしまった。