「ももクロらしさ」とは何だったのか

ももクロのニューアルバムの話をしようか。


その前にちょっとだけ過去に遡ろう。
まず2011年7月27日に発売された1stアルバム『バトル アンド ロマンス』。
今となってはもはや懐かしいアイドル戦国時代と呼ばれていた頃。同年4月の早見あかり脱退を機に「ももいろクローバー」から「ももいろクローバーZ」に生まれ変わった5人組は様々な仕掛けで急速にファンを拡大し、破竹の勢いでアイドル界を駆け上がっていった。
その勢いをそのまま爆発させて焼き付けたかのような『バトル アンド ロマンス』は紛れもない傑作で、アイドルとして初のCDショップ大賞を獲得し、収録された曲のほとんどが以降のライブの定番曲となり、さいたまスーパーアリーナ横浜アリーナ西武ドームと1万人以上の規模の会場を次々に即完売させるグループにまで成長させた。
思えばその多くの曲を手がけたのがヒャダインで、彼の才能とももクロの個性がお互いに高い次元で融合したのが、成功の大きな要因だったのだろう。
逆に言えば、底抜けに明るく縦横無尽に駆け回る溌剌さ、往々にして「全力」と形容されるももクロのパブリックイメージは、ヒャダインの楽曲によって形成され、固定化してしまったのかもしれない。


そんな固定イメージからの脱却を図ったのが、2013年4月10日に発売された2ndアルバム『5TH DIMENSION』だった。
リード曲の『Neo STARGATE』『BIRTH Ø BIRTH』はEDM、キービジュアルはトゲで覆われたマスクで顔を隠すというトリッキーすぎる攻め方でモノノフたちを困惑させた。
アルバム発売当時に多くの人たちに散々考察・指摘されたことだが、リード曲の歌詞が指し示すように「囚われを全部解除して」「削ぎ落とせ 古いパラダイム 今ならまだ間に合う シフトしてゆけ」(Neo STARGATE)、「引き裂いて 現在(いま)を引き裂いて生まれ変わろう」「悪くない感じの 進化の途中」(BIRTH Ø BIRTH)と製作陣の意図は明確すぎるほど明確だ。
その象徴的事象が「ヒャダイン切り」だと思っていて、それはアルバム発売前から徐々に始まっていた。2012年9月5日発売の『ニッポン笑顔百景』(桃黒亭一門名義)以降ももクロに関わることはなくなり、ヒャダイン自身もTwitterで「ももクロに呼ばれない」と愚痴をこぼすほどで、モノノフたちも「次のヒャダ曲はいつか」と待ち侘びていた。
そんな中このアルバムでやっとヒャダインが参加した曲『灰とダイヤモンド』は期待を裏切るバラード、しかも作曲のみとあって、かつて作詞・作曲でヒャダインが作り上げたももクロの世界はすっかり姿を消した。
そして、発売直後にヒャダインがこのアルバムを酷評したと思われるツイートがうっかり流出して、ももクロ運営との長く暗い冷戦が始まるのだが、それはまた別のお話。というか真相は闇の中。
さて、2ndアルバムの話に戻すと、テーマは一見「脱・ももクロ」のようだが、実はリード曲以外は『仮想ディストピア』や『上球物語』などヒャダ曲以外の従来のももクロイメージを踏襲するような曲も収録されていて、「ももクロイメージの封印と呪縛」が混在、というか分離しているというのがこのアルバムに対する私の印象だ。それはアルバムツアーがサイリウムを禁止した第一部と、それを解禁する第二部に分かれていたように、リード曲の示す方向に進むべきか、既存曲のイメージに留まるべきかまだ迷っていたように思う。ひょっとしたら舵を切るにはももクロ自身が若すぎたのかもしれない。リード曲はどうしても背伸びをしている印象が否めなかった。


ももクロらしさを抑圧することで「脱・ももクロ」を目指した『5TH DIMENSION』から実に3年、つい先日、2016年2月17日に『AMARANTHUS』『白金の夜明け』の2枚のアルバムが同時発売された。
前置きが長くなったが、結論から書くと今回はこの3rd・4thアルバムの大傑作であるという話。音楽界には「1stアルバムが最高傑作」という俗説があり、ももクロもこの呪われたジンクスに陥ってしまうのかと危惧していたら、今回の2枚のアルバムで完全に覆った。
かつて袂を分かったヒャダインを再び迎え入れながらも旧来のももクロらしさを飲み込み、多種多様な楽曲が「分離」ではなく「同居」する、新しいももクロ像とでも呼ぶべきアルバムに仕上がっている。
昨年夏のライブ『桃神祭』の一大茶番で電撃復帰を果たしたヒャダインが作詞・作曲を手がけたのは『武陵桃源なかよし物語』『愛を継ぐもの』の2曲で、特に『武陵桃源なかよし物語』は1stアルバムの頃のももクロらしさを彷彿とさせる出来で、ヒャダイン完全復活に歓喜したのだが、それと同時にヒャダインがかつて作り上げたももクロらしさとは今やももクロの一面に過ぎないということも実感した。
前作『5TH DIMENSION』以降の3年間で発売されたシングル曲は、大物アーティストのコラボや、有名アニメとのタイアップなど、モノノフたちに賛否両論をもって受け止められてきたが、今作『AMARANTHUS』『白金の夜明け』の2枚に収まった時、ももクロ多様性を完成させるパズルのピースのように見事にハマっていった。ももクロ自身が年齢を重ねたこともあるだろう。我々が長年渇望してきた「ももクロらしさ」というものは、いつの間にか存在すらしない過去の幻想に変わっていたのだ。彼女たちはそんなものからとっくに脱却し、多種多様な楽曲を自分の色に染めるほど成長していた。『5TH DIMENSION』が目指した「脱・ももクロ」は、3年の時を経て「新・ももクロ」として結実したのだ。リード曲『マホロバケーション』で「那由多輪廻って脱皮完了」と歌うように。


・・・とここまで長々と書き連ねてきたが、素晴らしい楽曲の前で文字の力はあまりに無力だ。
まずはすぐに『AMARANTHUS』『白金の夜明け』という大傑作を手に取って欲しい。
ももクロ天国☆ももクロ天国☆一度はおいで!」
ももクロ天国☆ももクロ天国☆いつでもおいで!」