物語の向こう側 ~MOMOIRO CLOVER Z DOME TREK 2016~

 ももクロ初となる5大ドームツアー(正確には一般的に言われる「5大ドーム」ではない。かつてインディーズレーベルでのCD発売をメジャーデビューと勘違いしていた運営らしい誤表記とも言える)『MOMOIRO CLOVER Z DOME TREK 2016‘AMARANTHUS/白金の夜明け’』の最終地・西武プリンスドーム公演に2日間参戦してきた。

公演タイトルにあるように先日2枚同時発売されたニューアルバムを引っ提げてのドームツアーであり、当ブログにも書いたとおりこのアルバムが大傑作であることから、かなりの期待を持って参戦した。

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 アルバムの感想を要約すると「旧来のももクロらしさを封印して脱・ももクロを目指した前作から3年という時を経て、今作はそんなももクロらしさすらも飲み込み新・ももクロを完成させた傑作」であり、そんなアルバムを聴き込んで参戦したライブは、それはそれは幸福な答え合わせであるとともに、新しい楽しさの更新でもあった。

またしても前作との対比になるが、前作『5TH DIMENSION』を引っ提げてのアリーナツアーは、アルバム曲のみで構成された第一部と、既存曲のみで構成された第二部と、はっきりとコンセプトが分かれていた。特に第一部は、メンバーカラーを廃して白で統一された衣装に、仮面で顔を隠し、幕間のMCもなく、更には観客にはサイリウムの使用を禁止、と「脱・ももクロ」を強く押し出した演出であった。

そこで受けた印象は当然「今までのももクロと違う」であり、しかもそれはネガティブな意味で、今まで積み上げてきた「好きの貯金」が無ければなかなかにきついものがあった。勢いのある時にこそ次なる一手を打っておかねばならないというのは分かるが、些か振り切りすぎであったように思う。第二部ではサイリウムの使用も解禁され、メンバーも色付きの衣装に戻り、やっと「いつものももクロだ」と安堵し、心から楽しむことができたが。

今回のアルバムツアーも前回とほぼ同様にアルバム曲のみの第一部と、既存曲のみの第二部という二部構成であったが、衣装は通常どおりメンバーカラーで、顔も見えるし、サイリウムも使える。踏襲されたのはMC無しくらいだった。

という訳で見る側のハードルもぐっと下がり、「いつも通り」のライブを期待していたら、第一部で受けた印象はまたしても「今までのももクロと違う」だった。しかし今回はポジティブな意味で。

強制的にペンライトを奪われ、見る姿勢の変更を余儀なくされた前回とは違い、今回は自発的に「もう『うりゃおい』とか要らないのかもな」と思えた。客席からコールがなかったわけではない。むしろメンバーたちが「どこで合わせてくるんだろう」と感心するほどに統率されたコールがあったにもかかわらず、私の心の内ではそんな既存の応援スタイルを不必要に感じていた。それほどまでにメンバーのパフォーマンスに見惚れ、聞き惚れていた。

そんなことを思っていたが、第二部に突入しおなじみの曲たちが流れ始めた途端、身体は自然と反応し、サイリウムを振り、いつものコールを叫んでいた。

「あぁ、どちらも楽しいじゃないか」

コールがあっても楽しいし、コールがなくても楽しい。アルバムを聞いた感想のとおり、今までのももクロらしさを飲み込みつつ新しいももクロらしさを体現するライブだった。

前述のとおりコールの統率ぶりに驚いていたメンバーたちであるが、その直後に「楽しみたいように楽しんで」と発言していた。様々な魅力を見せる楽曲群がももクロ多様性を実現したように、ライブにおいても見る側の多様性を受容していた。

かつて新規ファンの単調な応援スタイルを「モノノフスイング」と揶揄する風潮があったが、今現場を見てみたらどうだろう。カップルで、親子連れで、はたまた家族全員で、まさに老若男女が揃って楽しめる現場になっているではないか。

ももクロの魅力はしばしばそのストーリーとともに語られる。「別に」事変で暇になった川上マネジャーが、元々アイドル志望でない子たちをかき集め、思いつきでアイドルグループを結成。路上ライブから始まり、ワゴンカーでの全国行脚、サブリーダー・早見あかりの脱退、ももいろクローバーZへの改名…、様々な試練を乗り越えていく中、いつしか「紅白出場」という目標が物語の大きな幹となっていた。

モノノフたちはそんな物語も「込み」でライブを楽しんでいた。だから紅白初出場を果たして以降は「物語の喪失」であったように思う。更なる飛躍を求めて「国立競技場でのライブ」というとてつもない目標を掲げるが、それも幸運に恵まれわずか1年余りで達成してしまう。残された物語は「紅白で早見あかりと再会」のみであったが、昨年末にまさかの紅白落選。そして、紅白卒業宣言。

自ら物語を捨てたともとれるこの行動に唖然としたが、今回のステージを見て、そんな物語を抜きにして、圧倒的に楽しいとただただ純粋に思った。

卒業宣言はしたものの、その直後の各メンバーのブログを見れば、あの約束が今も大切なものであることは自明だ。しかし、そんなストーリー性は今や一要素に過ぎない。大人たちが用意した壁を乗り越える、なんて図式もとうに捨て去られた。

日産スタジアムでの桃神祭開催こそ松崎しげるのサプライズで発表されたが、それよりも遥かにハードルが高いであろうアメリカツアーの開催は嬉々として自らの口から語られた。

ももクロはすっかり成長し、かつては身の丈以上の大規模な会場であった西武ドームが小さく感じるほどにその手中に収めていた。

私は1日目はアリーナ席、2日目はスタンド席と、まったく距離の違う席でステージを見たが、不思議なことに同じように楽しかったのだ。

今回のツアーで喧伝されていた「ももクロ第3章の始まり」の意味をしっかりと噛みしめるライブだった。

 

最後に。

今回は各メンバーの特技が披露されたのだけど、ドラムをたたく杏果が天元突破するほどに可愛かったことはここに記録しておかねばならない。