『テベ・コンヒーロ』のコウメ太夫は何故面白かったのか

あなたは、コウメ太夫で笑ったことがありますか?


多くの人が、特にお笑い好きであれば「いいえ」と答えるだろう。
しかし、ある番組のせいで私はその質問に「はい」と答えなくてはならなくなった。
その番組とは『テベ・コンヒーロ』。日曜夜8時というゴールデンタイムど真ん中に、松島トモ子に猛獣への餌やりをさせたり、過去のスターの不人気を競わせたりと、悪意を笑いに変え続け、先日終了を迎えた『クイズ☆タレント名鑑』の残党が作る深夜番組だ。深夜でも引き続きその悪童精神を発揮した企画を送り続けている。
そして昨日、「コウメ太夫で笑う芸人など存在するのか?」を検証するため、「コウメ太夫で笑ったら即芸人引退スペシャル」と題された企画が行われた。


コウメ太夫といえば『エンタの神様』でブレイクした芸人だ。
エンタの神様』は芸人のネタを番組仕様に作り変え、ネタ前には極端な煽りVTRを入れ、ネタ中は過保護なまでのテロップを差し込むというお笑いを冒涜するかのようなスタイルから、お笑い好きからは蔑視され、芸人からは出演依頼を「赤紙」と揶揄された。
時にはスタッフが一からネタを作ることもあり、数々のキャラ芸人を生み出した。スリムクラブ真栄田もフランケンシュタインを模したフランチェンというキャラで出演していたが、番組の用意した台本があまりにつまらなくて震えた、と後に語っている。
そんなキャラ芸人のうちの一人、コウメ太夫はまさに『エンタ』システムの象徴のような存在で、「笑いのプロの芸人ならコウメ太夫のネタなんかで絶対に笑わない!」と言われても仕方がない。


番組冒頭でも出演者から散々な評価を与えられる。
小木「今まで(コウメ太夫を)見て笑ったことがない」
有吉「そもそも『エンタ』で笑ったことがない」
矢作「確かに(笑ったら)引退するくらいのアレだわ」


コウメ太夫はつまらない」という悪意全開の前フリが完璧に作り上げられた後、幕が開き登場したコウメ太夫。『エンタ』出演時と変わらぬ出で立ちで、同じように「♪チャンチャカチャンチャンチャチャンチャチャチャン」とネタを披露し始めた。
これがもうひどいなんて代物じゃない。つまらないというレベルを逸脱したつまらなさ。
まずリズム芸なのに字余り字足らずが当たり前でリズムを放棄している。ネタの内容もひどく、「ウソにも程がある」(小木)。
何せ「偏差値の低い学校に入学したら先生がチンパンジーでした」だもの。ひょっとしたら『エンタ』のときよりもひどくなっているかもしれない。
私もこの時はまだ「相変わらずつまらないな」と冷ややかな目で見ていた。


そして、2回目のネタ披露。

ギターを持って登場。
これ、絶対にやっちゃいけないやつじゃないか。同門にギター侍がいるのに、アレンジにそれを選ぶって最悪手だろう。ネタのひどさにも加速がかかる。もはや面白いことを言うつもりがないのかとさえ疑ってしまう。
ひどい。本当にひどい。しかし気がつけば笑ってしまっていた。


何故だろう。このコウメ太夫すごく面白いんだ。
エンタの神様』は「面白いですよ」と散々煽っておいてこれを出すのだから、失笑こそあれつまらないのは当然だ。
今回はその逆で「コウメ太夫はつまらない」という前提で、ハードルを下げに下げている。ハードルが下がっているから大したことじゃなくても面白く感じるのかというとそうではない。大したことなさすぎるから笑うのだ。その下がりきったハードルの下を穴掘ってくぐってきたくらいのつまらなさを出してくるから面白くて仕方がない。矛盾しているようだが「つまらない」から「面白い」のだ。ひどいものをよりひどい状態で見せてそのひどさを笑う。謂わば『あらびき団』の精神に近いかもしれない。
これがもし「コウメ太夫は本当につまらないのか?」とか「コウメ太夫を面白くしよう」みたいな企画だったら、ここまでの爆発力を持たなかったと思う。


以降もイタコキャラや、コウメ太夫の格好をさせた後輩芸人との漫才と、よく芸人が「あの頃迷走してこんな芸やってたんですよ」と言うような、いやそれよりもひどい、明らかに軸足の定まっていない芸を披露し続ける。急ごしらえであるからネタ自体も粗いし完成度も地を這う低さ。我々の「つまらない」の予想をはるかに上回る(下回る?)つまらなさを見せてきて、もう腹を抱えて笑う。


そして最後、コウメ太夫が披露したのはフリップ芸だった。
で、その絵がこれ。

小学生でももっとましな絵を描くよ。もはや追い込まれたがゆえの狂気すら感じる。
ネタの内容もまともな芸人が考えたとは思えない。

ロシア民謡『一週間』のメロディーにのせて)
月曜日は離婚通知書がきて
火曜日は籍が抜かれて
水曜日はシングルファザー
木曜日は窓から落ちて
金曜日はトラックに轢かれ
土曜日は破た〜ん〜

チクチクチクチクチクチクショーチクチクチクチクショー

「破産」とかではなく「破たん」。どういうことだよ。何が破たんしたんだよ。
心の中のツッコミが総動員される。しかもネタの内容につっこむのではなく、ネタのほつれ、それこそ破たんにつっこむのだ。
そしてこのまま二番に突入。

月曜日はスリにあって
火曜日はオレオレ詐欺にあって
水曜日はドブに落ちて
木曜日は雷に打たれ
金曜日は竜巻に飲まれ
土曜日は破た〜ん〜
チクチクチクチクチクチクショーチクチクチクチクショー



もう「ドブ」とか書いちゃう。面白すぎる。


そしてこの日の結論は、「コウメ太夫のネタを見ると芸人は全員笑う」。
納得だ。この企画のコウメ太夫は確かに面白かった。だからと言ってコウメ太夫が再生されたのかというとそれは違う。『エンタ』の墓場を掘り起し、死者をゾンビとして復活させたに過ぎない。再び日の光を浴びればたちまち死んでしまうだろう。
今後も『テベ・コンヒーロ』はこうした幾多の亡霊を乗せて走り続けるのだろう。恐ろしい番組だ。